2010/06/19

右に行くのか 左に行くのか

今まで幾度となく岐路に立たされてきた。
そして、その度に選択を迫られ、何かしらの決断をする。
自ら決断できればまだしも、悩んでいるといつの間にか見えなくなる岐路もあった。
良いのか悪いのか、自分の思いとは裏腹に勝手に前へと進んでしまう事も。

思えば高2の頃、私も一応予備校には通っていた。とは言っても大学に行く気はない。
親には申し訳ないが自習室で論文の勉強だと決め込み、
ふだん読み慣れない小説なんかを、ちまちま読んで時間を潰していた。
当時流行っていたシドニー・シェルダン。内容など覚えてもいない。
漫画じゃないだけいいようなもんで、なんの勉強になっていたのか。
とにかく、これといってやりたい事も見つからないし、自分に出来る事もわからない。
グルグルとさまよい、なんとなく時間だけが過ぎる。ただその時だけを見て。
あの頃を無駄だとは言わないが、もったいない時間の過ごし方をしていたと思う。

歯科技工士という仕事を知り、おそらく人生で最大の選択をした。

専門学校で学び、社会人として働いた。働きながら研修コースに参加もし、
留学することを決め学生に戻った。自分を試したくてアメリカで就職した。
そして開業。自分のやりたいことがここなら形になるような気がした。
少なくとも当時の日本よりは理想へ。そして、今はまだその途中。
乗り越えられない壁にぶつかり、上手くいかないこともあった。
自らが分かっていないという事さえも分からない。未熟故、そして今も。

2010/06/12

審美歯科治療
















#9 Pressable Ceramic Crown   CreationLF with CreationCP Coping

審美歯科治療において患者の思いを歯科医師はどこまで汲み取り、
また、歯科技工士にどこまで伝えきれているのだろうか。

たとえば初めての美容院に行き、気に入った髪形にしてもらえる事は少ない。
前髪の長さ一つにしても気に入らない事が多いのは、私だけだろうか。
どんなに口で説明し身振り手振り、あるいは写真などの切抜きを見せたところで、
気にいらない経験をしたことのある人も少なくはないだろう。
コミュニケーションというものは、そもそも難しいものだ。
美容師の技術的な問題もあるが、自分の思いを相手に伝えるのは非常に難しいし、
相手の気持ちを汲み取る事もまた非常に難しい。

さらに言えば、
異国の地でその国の言葉を上手く話せない人が通訳を伴って美容院に行くとする。
気に入った髪形にしてもらうにはおそらく相当苦労する。その難しさは容易に想像が付く。

歯科治療の事をあまり知らない患者を異国でその国の言葉を話せない人としたなら、
歯科医師がその思いを代弁する通訳で、歯科技工士は求められるものを提供する美容師。
さて、作られた技工物は本当に患者の望んでいたものなのだろうか...疑問だ。
色調あるいは形態にしても、患者のこだわりが強ければ強いほど、
求める側と作る側とで十分なコミュニケーションが必要になる。
しかし、患者と歯科技工士との間で直接やり取りが行われることは少ない。

患者が望む審美的回復がどこまでのものなのか、
どのような処置が可能で、また患者の要求を満足させるための施術。
そして歯科技工物に至るまで現場のトップである歯科医師に委ねられているのが現状だ。

そして、通訳はこう言うかも知れない。異国の地で嘆いているその人に、
 『あなたの言っていることを私はすべて正確に伝えた、
  望む髪型に出来ないのは美容師の技術的な問題。他所へ行きましょう 』 と。

歯科治療における歯科医師と歯科技工士の間にある構造的な問題は、
治療を行う人間と歯科技工物を提供する人間が違うところにある。
そして、そこには絶対的な上下関係が横たわっているのも事実だ。

2010/06/09

未経験者
















Model Work for Single Crown

実は、もう辞めてしまったスタッフの作った模型。
出産を期にうちを去ることになった彼女の仕事を、カメラをいじりついでに撮ったもの。
それぞれ違う患者のケース。咬合平面の取り方や台付け、分割、マウントに至るまで、
彼女なりに、とても気を使っていてくれたことが分かる。
忙しい日々の中、丁寧な仕事を心がけてくれていたことに、

今更ながら感謝している。

歯科技工士免許はもちろん、どこかの歯科技工学校を出たわけでもない。
うちに来たときは歯科技工の事なんかまったく知らない未経験者。見習いから...
歯科技工士になりたいという熱い思いは、彼女の作業一つ一つに表れていた。
ワックスアップをし、メタルをキャスト。調整を終えてオペーク、ポーセレンマージンまで。
一通りの流れで任せる事ができた。数はこなせなかったけれど、どれも丁寧に。
おそらく、もう少し時間があれば、ある程度数もこなせるようになってはいただろうし、
単冠ぐらいは任せる事ができるようになっていたかもしれない。

彼女がうちにいた期間は、たったの10ヵ月しかなかったのだから。

この春から、新しいスタッフが増えた。皆、歯科技工未経験者だ。
だから、模型作り一つにしてもどうにも上手くいかないことがある。
そして、どうしたらこんな風に作れるのかと画像を見て盛り上がっていた。

できるようになる。初めは誰にでもあるのだから。

歯科技工免許を持っていても、模型すらまともに作れない歯科技工士がいる。
中国などからの海外歯科技工物が問題視される中、
歯科技工物のあり方、歯科技工士のあり方が問われている。

日々の仕事に追われ惰性で過ごす毎日。
やりがいを見失い、努力する事を忘れ、分かった気になって見切りをつける。
そんな歯科技工士の作り出す歯科技工物が、
無資格者の作るそれよりも優っていると、誰が言い切れるのだろうか。