2010/08/19

世界を相手に
















 #21, 30, 31 Full Gold Crown     Type Ⅲ Gold

インターネット上では中国や韓国、東南アジア諸国の歯科技工所が、
英語圏向けに広告を出しているのを目にする。

事際、アメリカでも中国製歯科技工物はかなり多い。
歯科医が直接ケースを送っている場合もあれば、
歯科技工所が下請けとして利用していることもある。
また、アメリカ国内大手の歯科技工所が中国に支店を作り、
大量に流している場合もある。いずれにせよ、最大の魅力はその値段にある。
圧倒的な数を誇る人口、1/10とも1/20とも言われている人件費。
この価格競争に太刀打ちできる国は今のところ見当たらない。

かつての日本製品、あるいは韓国製品がそうであったように、
中国製品もまたその質を上げてくることは間違いない。
それを消費者が求めるのなら、そう変化していくのが市場だ。
戦後の日本が、欧米諸国の製品に追いつけ、追い越せと。
いつしか日本製であることは認められ、その市場で優位に立ってきた。
たとえば、かつての日本車は性能や馬力、安全性で国際市場では太刀打ちできなかった。
今やアメリカのフリーウェイを走る多くの車は日本車だ。
そして、日本の企業をも凌ぎ質的向上を成し遂げてきたのが韓国。
携帯電話や液晶テレビ等の家電製品。世界中でそのシェアは増す一方だ。
最近の韓国車、こんな記事も目にする。

世界はグローバリゼーションを合言葉にその距離を縮めてきた。
中国からの安い歯科技工物の流れを止めるのは、おそらく難しい。
日本の歯科技工士が、世界的にも珍しい高度な教育機関で学び、
国家資格を得ても尚、無資格者の作る雑貨扱いの代物と張り合わざるを得ない構図に、
違和感を感じずにはいられない。
















保険の仕事に追われ、学ぶ時間を奪われ、自身の体に負担をかけ、
それでも患者のためにと励んできた日本の歯科技工士。
更に悪化する厳しい労働条件と海外歯科技工物等による低価格競争。
高い離職率と歯科技工士不足は、この業界の抱える問題点を顕著に表している。
寝ないで頑張ってきました、体を壊すほど頑張ってきました。
でも何一ついいことがありませんでした。歯科技工士を辞めました。

そこらでよく見かける愚痴り合いの先に、歯科技工士の未来はない。

医療というどこか閉鎖的な現場では、そもそも変化は受け入れられにくい。
保険、自費と区別される日本の歯科治療。そこに存在する光と陰。
自費の仕事をしたことが無い歯科技工士、保険診療に頼りきっている歯科医師。
セイフティーゾーンの中では言い訳もしやすいのだろう、『保険だから...』と。
そこに甘えがないと言い切れるだろうか。

市場は常に変化していく。

中国の歯科技工所はその値段の安さで世界を相手にしている。
おそらく日本への進出も視野に入れている。それも保険ではなく自費の仕事で。
$35でPFMを提供する歯科技工所、中3日で仕上げられる$50のオールセラミックス。
自費も保険も無い自由競争の中、生き残れるだけの価値がそこにはある。

歯科技工士にとって、遠く離れた地球の裏側でも一人の患者に変わりはない。
国籍も人種も、肌の色や目の色も、文化や宗教、言葉が違っても、
同じように歯の痛み、悩みを抱えた一人の患者。

日本人の作る日本製の歯科技工物を世界に。

そんな野望を抱く日本の歯科技工士がいてもいい。
価格ではなく圧倒的な質の高さで。
そこに日本の歯科技工士の未来があるかもしれない。世界を相手に。