2010/09/13

丸10年

















#14 PFM Crown     Creation CC

先日、9月10日は私が初めてアメリカの大地に降り立った日。

と、なんだか大げさに言ってみましたが、丸10年が経ちました。
意外にあっけなくその日は過ぎ、そして11年目に突入。

思い描いてた未来は今よりもっと良い状態だと疑いもしなかった。
アメリカから端を発したこの不景気。私にとっては全くの計算外でした。
医療関係は不景気にも影響されにくいと言われていますが、
最近はなんだか身近にも感じ、正直不安でもあります。

ちょうどその記念すべき日を迎えようしていた先週末、
ある女性のドクターが突然うちのラボを訪れてきた。
どこかで会ったことがあるらしいが、私はまったく覚えていない。
単冠のPFM2本のケースを持参し、このケースをお願いしたいとのことだった。
初めての取引きなので、いくつかの技術的な事を確認し合い、
また、デザインやマテリアルについても話をした。
一通り話を終え、彼女は聞いてきた。

『このケースいくらで出来る?簡単な見積もりが欲しい』と。

そして、徐にリストを見せられた。そこにはこの界隈にある日系歯科技工所の名が。
老舗のラボから有名なラボ、まだまだ順番に回る予定らしい。
要するに気に入らなければ次ぎに行くと言わんばかりの強気な交渉術。
彼女が日本人の歯科技工士をとても気に入っているのは話の流れでよく分かった。
今、取引している日系歯科技工所の名前もいくつか口に出していた。
オーナーは私の知り合いでもある。もちろん、技工料金については知らない。
うちのプライスリストをプリントし、彼女に手渡した。
しばらく眺め、何も言わず他所の歯科技工所のプライスリストを彼女はずらりと並べた。
6枚以上あっただろうか、上は$150前後から下は$60ドル前後まで。

『他所のアメリカのラボはどこもこんな感じよ。平均的だと思う。
日本人の技工士が他所より高いのは理解してる。ただ、知っているとは思うけど、
私たち歯科医院もビジネスは大変なの、いい値段を出してほしい。
このケースはあなたとのはじめてのケースになるのだから』と。


ドクター自らわざわざ足を運んでもらったわけだし、
うちとしてもそれなりの誠意は見せる必要があると感じた。
しばらく考え、このケースに限り25%ディスカウントすることを彼女に告げた。
彼女は納得した様子で、指示書にサインをしようとする。
そして、私は一言、金属代は含まれていないことを付け加えた。手が止まった。
うちのプライスリストを再度確認し金属代や模型代は含まれていないことが分かると、
出された模型や印象、他社のプライスリストを片付け始める彼女。

交渉決裂の瞬間だ。

ここで引き止めて、うちが更に安くすることも出来たのかもしれない。
うちにとってもこの不景気なご時世、新規開拓は重要課題の一つなのだ。
『いくらなら出してくれるのか』と、譲歩することはそんなに難しいことではない。
しかしそれは、今お付き合いをしていただているドクターに対して失礼なこと。
彼らだって、同じクオリティーなら安い方が良いに決まっている。
うちを信用し、オリジナルのプライスで仕事を任してくれているドクターに対して、
言ったもん勝ちみたいな事はしたくない。そもそもフェアではない。

それに、日本の歯科技工士同士のダンピング競争に参加する気もない。
日本の歯科技工士に対するその評価は先達に対する評価そのものだ。
今の私たちがその評価を下げてしまうような事はあってはならないし、
むしろ技工料金の平均を押し上げるように努め、そのための技術は磨き続けるべきだ。

業界の事を考えずして、私たちの未来もない。

ただでさえ他のアジアンが安く、良い物を提供し始めている。
しかも彼らの多くは英語さえ流暢に話し、サービスも悪くはない。
日本の歯科技工士同士、切磋琢磨する事はあっても、
足の引っ張り合いをしている場合ではない。

彼女にとって、安くていい歯科技工士を見つける事は重要だと考えるから、
わざわざこうして足を使って歯科技工所を一軒一軒訪れたのだろう。

うちが取引しているドクターは満足してくれているのだろうか。

足を使わないにしても、安くていい技工所を探しているかもしれない。
実際に他所のラボを試しているかもしれない。
料金やサービスに不満を感じているかもしれない。
そんな事は知る由もないのだが、ふと不安に駆られる。

不安は考えるだけ無駄なのだが、自分を律するにはいい。
不景気な世の中で今の自分に出来る事、するべき事が何なのか。
その努力の仕方も間違っていれば、自分の求める結果を得る事は恐らく難しい。
アメリカだったから...とか、日本だったら...なんていい訳はしたくない。
10年が経ち。今、見えてる目標は5年後の2015年。

理想に一歩でも近づけるように。